本プロジェクトは、2021年のJST未来社会創造事業「世界一の安全・安心社会の実現」領域の探索加速型研究に採択されました。領域の重点課題は「心理状態の客観的把握とフィードバック手法の確立による生きがい・働きがいのある社会の実現」であり、私たちの研究・開発は、周産期における安全・安心の社会実現を念頭に、匂いを活用して母子間交流を促進するものとして位置づけられます。

尾﨑 まみこ

OZAKI Mamiko

奈良女子大学協力研究員
神戸大学大学院工学研究科客員教授
理化学研究所客員教授
テイカ株式会社社外取締役監査等委員

プロフィール

所属学会
日本味と匂学会
日本動物学会
日本比較生理学会
日本応用動物昆虫学会


専門
感覚生理学
神経行動学
化学生態学


経歴を踏まえた研究・開発の
バックグラウンド

匂い物質の化学同定とその行動・生理学的作用の研究

本プロジェクトへの寄与
母子間コミュニケーション、特にヒトにおけるフェロモン様化学物質の同定、作用の研究。

研究・開発代表として社会実装を見据えたプロジェクトの指針と展望を考える。

生まれたばかりの赤ちゃんが家にやってきた、腕に抱いたときどういう感じがするでしょう?温かい?柔らかい?そして、いい匂い!「この時期の赤ちゃんってとってもいい匂いがするんだよね」と、洋の東西を問わずしばしばいわれるのですが、科学的に証明されたという話は聞いたことがありませんでした。

それでも、これが本当だとすれば、ストレスフルな現代社会で、生理学的、内分泌学的、心理学的にポジティブなフェロモン作用をもつ新生児の頭の匂いや母親の羊水の匂いを使って、ストレを減らすことができると考えました。ポイントは、この匂いが花の匂いや果物の匂いのように単に良い匂いがするというだけでなく、我々ホモ・サピエンスという種が進化の過程で獲得してきたフェロモン情報処理システムに直接働きかけるだろうという点です。

言葉をもたない多くの動物種は、コミュニケーションツールとしてフェロモンの匂いを使っています(学術的にフェロモンという言葉は異性を引きつけるセックスフェロモンだけをさすものではありません)。同種他個体に影響を及ぼす物質という定義にのっとって、フェロモンには受容する相手に対して、自分をアピールする、自分の意図を実現する、自分が持つ情報を共有するといった働きが想定されます。

生まれたばかりの人間の赤ちゃんは言葉で自分の意志を伝えることができませんが、母親の世話がなければ生きていけません。さてどうしたことか。一方で、お産を乗り切っても、赤ちゃんの世話は待ったなしです。そんな母親にしてみれば、わが子といえども生まれたばかりはシワシワだしギャーギャー泣かれるとハラハラします。それでも世話したくなるのはなぜでしょう?腕に抱いて授乳する時、優しい気持ちになって世話をする気持ちになる。こればどうしたことか。

赤ちゃんとお母さんがたがいに、どうしたことかと思っている、この謎を解くカギが、母子間交流に用いられるフェロモンの匂いの作用です。この作用を、お母さんや赤ちゃんにフィードパックすることで周産期の不安やストレスが解消できるのではないか、さらにその作用が、ホモ・サピエンス共通に働くのであれば、あらゆる世代、あらゆる働き手にも、ポジティブな癒しの効果をもたらし、生きがい働きがいを高めることができるのではないかと考えました。

匂いによる母子間交流を活用した安全・安心の創造
プロジェクト代表 尾﨑 まみこ
mako_ozaki@hotmail.com